「祝・花流の日」

 ポカリを買いに行った桜木が「ただいま……」と帰ってきた。
 怪訝そうな声に体を起こすと、難しい顔をして茶封筒を眺めている。

「どうした?」

「いや……郵便受けに入ってたんだけど、宛名しか書いてねぇ」

「誰から」

「それもなし」

 そう言いながら、封をあける。中からはピンバッヂと、一枚の便箋が出てきた。

「……オレとてめーの顔が描いてある」

「『はなるの日を祝して』……だと。はなるの日って、何だ?」

「知らねー」

 答えながら、渇きを潤すためにポカリを取る。
 桜木は、しみじみとピンバッヂを眺めていた。

「そういえば、こうやって二人並んで写真とか、撮ったことねぇよなぁ」

「誰が撮るかよ、めんどくせー」

「そう言うと思ったぜ」

 笑いながら桜木はそう言ったが、本当は撮りたがっているのを知っている。
 けど、こっぱずかしくてやってらんねーよ。

 何となく、嬉しそうにそれを眺めている桜木を、オレは無理矢理ひっぱる。

 その日は祝日で、珍しく部活も休みで。どこかで運動会でもやっているのか、時折風にのってそんな放送が聞こえてくる。

 久し振りにオレも桜木との運動会を楽しんで、家に帰ったのは夜だった。

「楓。あなた宛に何かきてるわよ」

 渡されたのは茶封筒。部屋に戻ってあけてみれば、桜木に届けられたものと同じもので。

 よくよく見てみると、『2004.10.11』とピンバッヂを縁取るように彫られている。

 一体誰がこんなもん作って、何のためにオレたちに届けたのかは知らないけれど。

 二人の顔が並んでいるのを見ながら、これもなかなか悪くねーかも、と思ったりして。

「今度、一緒に写真撮ってやっかな……」

 なんて呟くあたり、オレもどうかしてるかも。

2004/10


きまぐれにはなるはな