「嘘」
 桜木くんに「流川くんは、私のことなんてなんとも思ってないからね」と言うのは簡単だ。
 でも、出来なかった。
 それを言ったら、桜木くんの目が完全に、流川くんに向いてしまうのがわかっていたから。
 私には、出来なかった。
 けれども結局、言っても言わなくても、同じことだったのよね。
 流川くんが心配しているようなことは、起こりっこない。
 分かりきっている事なのに。
 いっそのこと、流川くんの目の前で桜木くんに告白して、
 玉砕してみせた方がいいかしらと、ひとり嘲ることもあった。
 冗談にもならないけれど。
 お願いだから、もうこれ以上、自分の弱さで桜木くんを苦しめないで。
『片想いなの』
 そう言っていた頃が懐かしい。
 流川くんに、憧れだけ抱いていたあの頃が。
 二人だけじゃない。
 私だって、辛いんだから。
 ひとつの嘘を、桜木くんにあげるね。私からのプレゼント。
 二人が上手く行くように。そして、私も諦めきれるように。
 この恋を。
「流川くん、もうすぐにでも、アメリカに行くらしいよ」
 桜木くん。私。
 あなたのことが、好きです。
2005/01
⇒きまぐれにはなるはな