「終止符」
毎日の打ち合わせは主将とするものだけれど、私は副主将としている。
「オレはよくわかんねっすから、ルカワと決めてください」
馬鹿を決め込んでまで大声でそう言った桜木くんの気持ちを、私は知っている。
あの頃は、気付かなかったけれど。
「晴子ちゃんと流川の仲を取り持とうなんて、そんな殊勝になったのは驚きだけれど、これじゃ主将失格じゃないの」
彩子さんが呆れてそう言っていたけれど、違うんです。
桜木くんは、早く諦めたいだけなんです。自分の気持ちに、踏ん切りをつけたいだけなんです。
初めは、流川くんと話が出来るってだけで、緊張していた。すごくドキドキして、どもってばかりいた。
それが段々慣れてきて、何とか普通に話も出来るようになって、間近で顔まで見られるようになったとき、私、分かったの。
気付いたのよ。
「あ、ハルコさん。ルカワ来ましたよ」
「うん。じゃ打ち合わせしてくるね」
桜木くんは意外とポーカーフェイスが上手かったりする。だからなかなか気付かなかったけれど、あの無表情に意味があるのだとしたら。
そう考えると、すぐ答えが出た。
流川くんとの打ち合わせは事務的に終わる。正直、桜木くんでも勤まる仕事。
なのに流川くんは、初めから文句も言わなかった。
無表情な桜木くんが、私たちを見ている。
私は、流川くんがこんなに臆病な人だとは、思ってもみなかった。
「ね、桜木くん、また誤解しているよ。私たちが仲良さそうに話してるって」
あの無表情は、嫉妬の表れ。
「私が気付くくらいだから、流川くん、とっくの昔に気付いてるんでしょう? 桜木くんが、誰のことを好きなのか」
そして、何考えてんのかわからない、と皆はよく言う流川くんは、とてもわかりやすい視線を持っていた。
「桜木くんにとって、私が枷になっているのはわかるけれど、流川くんはわからない。両想いなんだよ? どうして言ってあげないの?」
嘘。本当はわかっているの。流川くんの中でも、私が枷になっていることくらい。
流川くんは勘違いしている。私に告白されたら、桜木くんは、私のことを好きになるんじゃないかって。
好き、は、ひとつじゃないんだよ?
「心配しないで。私は絶対、桜木くんに告白なんてしないから」
結果が分かっていても告白しないではいられないほどの想いでもないの。
流川くん。私も早く、終止符を打ちたいのよ。桜木くん同様。
自分の気持ちに。
2004/05
⇒きまぐれにはなるはな