「駅」
冬場の、人気のないプラットホームは、冷たい風が頬を刺し、頭の中を静かにさせる。
オレんちの最寄の駅と、ルカワんちの最寄の駅は、二つほど離れている。
所要時間は約12分。ものによっては、間の駅で止まってしまう電車もある。
その間の駅からは、別の路線が横切っていて、見事に学区を分けていた。
あっちとこっち。
一年前は、ほとんど知らなかった世界。
しんしんする空気の中で吐く息は白く広がる。それを見て、オレは寒さを実感する。
線路のあっちとこっちで、ヤンキーやってたオレと、バスケやってたルカワ。
学区の違いは、子供にとっては大きい。駅が違うことは、さらに世界を遠くする。
たかが一本のレールが、オレたちを隔てていた事実。
簡単で、当たり前で、どうにも出来ないことだけれど。
そういうものは、他にもたくさんあるもので。
夜の暗がりの中。蛍光灯の明かりだけの空間。
オレはいつも、考えてしまう。
「なぁ、ルカワ。オレたちいつまで一緒にいられんのかな」
ポケットに突っ込んでいても、指先は一向に温まることはなく。
静けさに耐え切れず、そんなことを口にしたら、あいつは馬鹿にしたように、横目で「さあ?」とオレを見た。
あえて二人、視線を合わせることはなく。
駅は好きだ。嫌いじゃない。
人でごった返す時間は勘弁して欲しいけど、町の人達が必要としているのだと考えると嬉しくなる。
朝には、言葉すら交わさないけれど、顔なじみが出来たりして、あぁ今日もご苦労さん、などと思ってしまう。
だから、駅は嫌いじゃない。
ルカワは、滅多に電車を使わない。移動はもっぱら自転車だ。
学校に行くときも、オレんちにくるときも。
でもオレは、電車を使う。
ほら、こんなところにも、オレとルカワの違いを発見。
オレの吐く息が白いのと同様に、ルカワの吐く息も白いプラットホーム。
それが、ルカワが一拍置いたことを知らせる。電車が近付く音が聞こえる。
「その気になれば、一生一緒にいられんじゃねーの」
急行から生まれた風が駆け抜ける。
そしてオレは気付くのだ。駅は必ず、レールで繋がれていることに。
2003/01
⇒きまぐれにはなるはな