「始まりと終わり」
流川を上から覗き込み、その前髪を手の平で梳き、額をあらわにさせながら、唇へとキスをする。
そうしながら、
もうこれ以上、こんな関係は続けられねぇ。
そう思ったとき。
静かな声で、流川が言った。
「こんなん、もうやめだ」
それからオレたちは、言葉といわず視線すら、合わせていねぇ。
きっかけは何だったかなんて覚えてねぇ。
でも、気が付いたら、オレたちはいわゆる『恋人同士』の行いをやっていた。何度も何度もやっていた。
面白さと気持ちよさに、オレは勘違いしていた。両思いなんだと勘違いしていた。
オレは流川が好きなんだ。それに気付いたとき。
この行為に、戸惑いが付きまとい始めた。
オレは、流川の気持ちを知らねぇ。
オレも、流川に何も伝えてねぇ。
なのに、じゃあ何故。何でオレたちはこんなことしてんだろう。
はっきりさせたかったんだ。
こんな訳のわかんねぇ関係、一度チャラにして、初めからやり直したかった。
ちゃんとオレの気持ちを伝えたかった。
あれから何日経ったんだろう。オレたちは目も合わせなかった。
オレが合わせられなかった。
流川を見ることが出来なかった。
何だよ、オレ。こんなにも、流川のことが好きだったんだ。
そんなことを思いながら。
廊下の先に、こちらに向かって歩いてくる流川を見つける。
オレは顔を伏せた。顔を伏せながら、そちらに向かって歩いていった。
いつも思うんだ。流川が声を掛けてくれたらいいのにって。
そんなことは、あるはずもねぇんだけど。
何も起こらないまますれ違って、オレは苦笑まじりに立ち止まった。
「もう、終わりかぁ……」
そう呟いたとき。
何の前触れもなく肩を掴まれて、勢いよく壁に背を打ち付けられた。
「始まってもいねーのに、終わりかなんて、どういうことだ」
流川だった。
あまりの驚きに、オレは声が出せなかった。
「始める為に、終わらせたんじゃねーのか。てめーはあれで、さよならだっつーんか」
「……ルカワ……」
肩から手を離して、流川は「どあほう」とオレを見る。
そうか。一緒だったんだ。
オレたちは、同じことを考えていたんだ。
「てめーが始めねーんなら、オレから始めてやろーか」
「バーカ。どっちだって一緒だろ」
オレは笑う。
照れ隠しなのか、嬉しいからなのか、それとも見栄なのかわかんねぇけど。
流川を見て、笑う。
「今日、ウチくんのか」
「行く」
言い残して、流川は去っていった。オレはその背中を見送る。そして思った。にやける顔をこらえながら思った。
今夜はきっと、忘れられない夜になる、って。
2002/12
⇒きまぐれにはなるはな