「花火大会」
夏の夜の堤防に、人の姿が集まりだした。これから始まる花火大会を、ここから見物しようという人々だ。その中に、湘北バスケ部の面々もいた。
主将の宮城が勝手に決めたのだ、バスケ部全員での見物を。
去年おととしと彩子に振られ、今年こそはの苦肉の策だった。
一人でも欠けようものなら「私も」と言われそうだったので、来なかった者にはそれぞれに罰を設けることにした。
一週間、部活以外でのバスケ禁止を提示された流川も、事実上の強請にしたがっていた。
早々と斜面に腰を下ろし、眠そうにしている姿を見つけて、桜木は苦笑した。
晴子が飲み物を持ってやってくる。
膝に覆いかぶさっている流川の肩を、ぽんと叩いた。
顔を上げた流川に飲み物を渡して、今度は桜木の方へと向かってくる。
それをずっと見ていた桜木に、晴子は笑った。
「はい、桜木くん。飲み物」
「あ、ありがとうございます」
「宮城さんも必死だね。彩子さんと花火、見るために」
そういう晴子の視線の先に、うれしそうに笑っている宮城がいた。しっかり彩子のそばにいる。
「桜木くん、知ってる? こんなことしなくても、今年は彩子さん、ちゃんと予定あけていたの、宮城さんのために」
「え、そうなんすか!?」
「うん。去年もおととしも、先に友達と約束していたから、断っていたんだけど、さすがにかわいそうになったからって、彩子さん言ってた」
「……だったら、こんなことしなければ、二人っきりだったってわけっすね。バカだなぁ、リョーちん」
「でも、感謝しなきゃ。おかけで私も、好きな人と一緒に見れるもん」
桜木の目の端に、ちらりと流川の姿が映る。
流川はじっと、二人を見ていた。
「ね、洋平くんたちも来てる?」
「えっ。あ、いや、どうかな」
「話したんだけどな、今日だって」
そうして、きょろきょろと辺りを見回しながら、呼びに来た藤井や松井と一緒に、晴子は去って行った。
それを見送ってから、桜木は清々しく息を吐く。
そのまま流川のほうへ振り返ると、しっかり目が合ったが、流川はふいとそれを逸らした。
分かりきっていたその態度に、桜木は諦めの笑みを刷く。
それでも、足をそちらに向けた。
半人分、間を空けて、流川の隣に腰を下ろす。
街灯と闇が織り成すその一帯を、打ち上げ花火が彩り始めた。
2002/07
⇒きまぐれにはなるはな