「スパイ容疑」
 姉貴に無理矢理連れられて、デパートへ行った。
 今日はヤケ買いするのだという。要するに、オレは荷物持ちだ。
 かったりーと思いながら、否を言わせない姉貴と、しぶしぶ訪れたそこで、何の偶然か、桜木に会った。
 6階のスポーツ用品エリアでなら分からなくはない。
 けれど、ヤツがいたのは全然別のところだった。
「あ……」
 エスカレーターを乗り継いでいるときだったので、はっきりとは見えなかったけど。
 「何よ」と振り返った姉貴に、「別に」と答えながら、妙なところで会うもんだと思った。
 8階レストラン街でメシをおごってもらい、折り返したときに、さっき桜木がいた辺りをうかがってみた。
 どうやら着物を売っているところのようで、ますます訳がわかんなくなった。
 そもそも、ここに来るには、電車に乗らなきゃなんねーし、デパート自体似つかわしくねー。
 極めつけが、呉服屋ときたもんだ。
 暇つぶしに、いろいろ考えて、次の日桜木に聞いてみた。
「てめー、昨日あてもなく電車に乗ったら、知らねーばーさんと仲良くなって、買いもんに付き合っただろ」
 桜木は、馬鹿みてーに口をぽかんと開けて、目をぱちくりさせた。
「何で知ってんだ?」
 そのあと、オレはスパイ容疑をかけられた。
2002/07
⇒きまぐれにはなるはな