「好意」
一人の女性の目が、親友の姿をじっと追っていることに気付いたのは、つい最近のことだ。
「藤井さん」と声を掛ければ、こちらを振り向くおとなしめの彼女。
「水戸くん」
彼女はそう言ってふっと笑うと、再びコートへ目を移した。
「松井さんは?」
「デートだって」
「へー……」
初めは、バスケ部のマネージャーになった友達を見に来ているのかと思っていた。
彼女の視線が動線を描く。
今ではもうそれが誰に合わせられているのか分かっているが、気付いた当初はどちらを追っているのか計りかねた。
「うちのバカの今日の様子はどうですかね」
「相変わらず」
「そうですか」
「少しずつだけど、戻ってきているみたい。感覚」
そう言って嬉しそうに笑う。心配そうに見詰めていたあの顔には、この頃ご無沙汰だ。
そんな風に、親友を見詰める女性が同級生でいるのは初めてで、いらぬおせっかいが顔を覗かせる。いや、好奇心かもしれない。
「藤井さんさ、花道のこと好きなの?」
「うん」
親友から視線を外さないまま、彼女は事も無げに頷いた。
「彼のこと、嫌いな人なんていないと思う。確かに見た目は怖いし、私もはじめは苦手だったけど、あんなに一途で努力を惜しまない人は、やっぱり応援したくなる」
「応援?」
「うん。頑張れって」
そして彼女はこちらを向いた。
「水戸くんもそうでしょ?」
「ははっ。全くおんなじ」
微笑んで、彼女はまた視線を戻す。
「桜木くんを見ていると、元気が出てくる。私も頑張らなくちゃって思う。毎日毎日、本当、凄いよね」
「ホントに。オレには真似出来ないね」
「そうかな」
水戸は眉を上げた。
「水戸くんは水戸くんで、水戸くんにしか頑張れないことを、頑張っていると思うけど」
くすくすと笑っている。
「じゃ、藤井さんも藤井さんで、藤井さんにしか頑張れないことを頑張ってるんだ?」
「かも知れない。とりあえず、弟たちの面倒かな」
「へー。兄弟いるんだ」
「うん。弟と妹が二人ずつ」
「五人兄弟の一番上?」
「そう」
なるほどね、と妙に納得した。彼女の好意も、自分が親友に抱いているものとよく似ている。つい、ほっとけなくなるのだ。
「さて、オレはバイトがあるので行きますが、藤井さんは?」
「もう少し見ていく」
「そうですか。では、あとはよろしく」
あのバカが、またケンカをおっぱじめないように。
そうは言っても、私には止められないよ、と苦笑が漏れる。
去り際にもう一度親友に視線を走らせ、相変わらず色男と付かず離れず火花を散らしている様子に肩をすくめる。
色恋ばかりが世の中じゃない、か。
そう呟いて、自分で「本当か?」と突っ込みを入れた。
2002/05
⇒きまぐれにはなるはな